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IGF 2023報告会セッション要約

第1日目 2023年12月26日(火)

開会挨拶

IGF 2023に向けた国内IGF活動活発化チーム チェア 加藤 幹之

加藤幹之氏からは、関係者への謝辞の後、 以下のコメントが述べられた。

6,000名以上が170以上の国から現地参加されたIGF京都2023は、 多くの議論が繰り広げられた貴重な会合であり、 18回目となるIGF会合のうち今回がベストであったとの賛辞を多数の方からいただいた。 この2日間にわたるIGF京都2023報告会は、 何らかの事情により聞き逃したセッションがある方への一助となり、 また意見交換の場になればと考えている。 9月に実施したIGF活動活発化チームの事前会合は、 日本人登壇者からセッションの概要をご説明いただき、 大変好評であった。 この報告会も広く話を聞き、また意見を述べる機会として、 活用していただきたい。

IGF京都2023は大成功をおさめたが、 これで終わりということではなく、これから何をしていくか、 どのような経験を積む必要があるかといった議論を続けることが重要である。 そのため、本報告会ではセッションの他、 参加者による感想の発表・議論に多く時間を設けているので、 インターネットガバメンスへの取組みについても議論していただきたい。

2024年12月に予定されているサウジアラビアでの次回IGFについても、 日本として関わっていくべきだと考えているので、 引き続きよろしくお願いしたい。

1. IGF京都2023を開催して

総務省国際戦略局 飯田 陽一

2023年のIGF京都は、 参加者数のみならず内容についてもIGFの歴史のなかで最高の大会であったとの評価を得ることができ、 誇らしく思っている。 参加者数9,279人、うち現地参加6,279人、 オンライン参加者は3,000人以上となった今年のIGFのメインテーマは、 「私たちの望むインターネット―あらゆる人を後押しするためのインターネット」であった。 開会式およびAI特別セッションにおいて岸田総理大臣は、 民主主義社会の基盤としてのインターネットの重要性について強調し、 その恩恵を最大化するために負の側面への対応を含めたマルチステークホルダー・アプローチを支持することを表明した。 IGFは世界中の人々が参画してインターネットについての議論をする場であり、 マルチステークホルダーとインクルーシビティ、 この二つが最も重要なメッセージだった。

長年、 IGFでの議論を実際の政策形成に反映することが課題となっており、 日本がG7において議論をリードしている広島AIプロセスを伝えるAIセッションを企画した。 G7以外の国も含めたマルチステークホルダーでの議論をタイミングよくIGFですることができた。 このセッションでは、 鈴木総務大臣がAI開発者向けの国際的な指針および行動規範の合意前の案文を紹介したほか、 産業界、国際機関、 学術界を代表する方々など幅広い分野の方との議論を行い、 G7での議論に反映することができた。

また、ハイレベルリーダーズセッションとして、DFFT、偽情報、 WSIS+20、SDGsのセッションが行われ、 日本からも政府関係者や有識者がパネリストとして参加した。

その他、総務省としては10セッションを主催し、 多様なテーマについて議論の機会を設けた。 インターネット関連企業による展示ブース(IGF Village)についても大変好評であった。

2023年のIGFは、 AIにフォーカスされていたと国連を含めさまざまな方から指摘があったが、 インターネットのエコシステムにAIを位置づけたのは良い側面であった。 個人的には、G7とIGFが重なったためリソースに限界があり、 したかったことがすべてできなかった面はあるが、 IGFは総務省が総力を挙げ、 また官民のタスクフォースの多大なご協力もあって、 大いに成功を収めることができたと感謝している。

加藤チェアが述べたように、これはゴールではなく始まりであり、 今後も国内での活動を海外に伝えていくことが重要。 マルチステークホルダー・アプローチがいかに大切であるかを示し、 官民をあげてインターネットガバナンスのフレームワークを維持・強化するために協働していくことを切に願っている。 IGF 2023にご尽力いただいた方々に厚く御礼を申し上げるとともに、 今後もご協力をお願いしたい。

2. IGF京都2023への全学を挙げた参加およびサイドイベントを開催して

京都情報大学院大学 サイバー京都研究所 田中 恵子

KCGグループ(京都コンピュータ学院および京都情報大学院大学)は、 京都情報大学院大学が.kyotoのレジストリであることからIGFとのご縁が続いている。 新しくgTLDの応募があった際、 ICANN申請時よりドメイン研究会を開催し、その後、 京都府の推薦も得て地域の情報産業との連携をはかっている。 2023年は、IGF京都の開催と京都コンピュータ学院60周年が重なり、 全学を挙げてIGFに対するコミットメントをする運びとなった。

.kyotoは、

  1. オープン大学京都事業および
  2. 世界における京都ブランドの確立

を二つの柱にしており、 .kyotoが安心・安全なインターネット空間であることをポリシーとしている。

KCGは、日本初のSchool of Internet Governance(SIG)事務局を学内に設置し、 2023年下半期に5回のハイブリッド一般公開授業を開催。 また、IGF 2023のプレイベントとして、 10月6日にマーカス・クマー氏(前IGF事務局長)とアヴリ・ドリア氏(ICANN理事)特別講演、 10月7日に若者を対象とした「これからのインターネットのためのSIG」(チャンゲタイ事務総長が基調講演)を開催した。 IGF会期中には、その他にもさまざまな催しを主催・共催した。

上述の催しの他、IGF Youthへの滞在施設の提供、 国内IG関連の取組みを紹介する英語パンフレットの作成・配布、 リモートハブの解説、 学生・教職員のIGF登録・参加の促進に取り組んだ。 若い参加者の登録者数の伸びについては、 当グループの貢献が大きいと自負している。

KCGグループは、 引き続きIGFリモートハブの設置(年次のIGF開催時)、 国内外の若い世代とのつながりの維持・発展、 キャパシティ・ビルディング創出の継続(SIGおよびその他)に貢献していく所存である。 個人的にもインターネットガバナンスの現場で意見を言うことのできる若者の育成が必要だという感を強めたので、 そのための活動を続けていきたい。

3. IGF 2023報告~展示とAIのセッションを中心に

総務省 総合通信基盤局 電気通信事業部 データ通信課長 西潟 暢央

総務省データ通信課が準備段階から中心的な役割を担ってきたIGF Villageでの「日本展示」の概要と、 人工知能(AI)やインターネットガバナンスの分野で発表者が登壇等したセッションの結果について紹介があった。

「日本展示」のコンセプトは「日本の発信」であり、 日本の技術力や企業等の取組を大いにアピールするとともに、 政策的な取組や我が国の伝統文化についてもアピールできるものとした。 会場となった京都や同じ関西の大阪万博のブースも設置した。 展示会場を必ず通過しなければいけない会場の導線のおかげもあって会場は大盛況であった。

AIに関するセッションでは、 2016年のG7香川・高松情報通信大臣会合で日本が最初にAIに関する議論の必要性を提唱したことをはじめ、 AIに関するルールメイキングの分野においては日本が国際的な議論を牽引してきたことをあらためてアピールした。

最後に『AIの問題は色々あるが、オーバーユース(使い過ぎ)、 ミスユース(誤使用)、 マルユース(悪用・濫用)はすべて人間の問題なのだから、 これらは人間が解決しなければならない』というカリフォルニア大学バークレー校のスチュアート・ラッセル教授の発言(2019年にパリで行われたGPAIの式典での発言)を紹介するとともに、 マンガ海賊版対策もその一例だが、 インターネットの問題も同様で人間が解決していかなければならないことを強調した。 また、IGF 2023の日本開催は大成功だったが、 2023のレガシーとして何を残していくことができるか、 国内の政策的な議論にどう反映していくのかきちんと検討していく必要性が示された。

4. インターネット分断化、グローバル知識コモンズ、IGFの役割

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 渡辺 智暁

IGF参加は3回目の渡辺氏より、 IGF 2023で登壇した二つのセッションについて、 およびIGFの役割について、以下のような話があった。

(WS #405)「インターネットの分断」については、 自分も総務省の西潟さんも直前に依頼されて急遽登壇したが、 意外な人との出会いなどもあり、IGFならではの面白さがあった。 セッションの内容としては、インターネット分断の定義は、 ドメイン名システムの複数化、トラフィック・技術面での分断、 コンテンツの検閲など多様であり、 Free & Open InternetやFree Flow of Dataからの逸脱はすべて分断といえるのかどうか、 すでに分断が起こっていると言ってしまうと容認派が増えるので良くないのかどうか、など、 議論は尽きないため、分断の解決策は何なのか、また、 問題の大きい分断を特定して、議論を集中すべきではないかと思う。

(TH #134)グローバル知識コモンズのセッションについては、 デジタル分野のグローバル公共財ともいえるDigital Knowledge Commonsについては、UNESCOでも、 自ら創造するという新しい教育として重要視されており、 オープンソースソフトウェアとかオープンデータ政策とか、 Wikipediaなどが例として挙げられる。 オープンに利用できる知的な資源を充実させて可用性を向上させる取り組みは、 教育、科学、文化などの多様な分野で行われているが、 まだ不十分であり、 いくつかの議論となっている問題点について説明があった。

IGFの役割については、今、 「民主主義の危機」とも言われているが、 民主主義が機能するためには関係者間の信頼が重要であり、 用語の使い方の合意やオフレコでの根回しがあるなしで、 議論が合意に達する容易度が大きく変わる。 IGFでのマルチステークホルダーでの議論は、 合意そのものを形成する場ではないが、 合意形成のための「地ならし」「土壌形成」の場としての役割が大きく、 「パブリックコメント」を述べる・聞く場としての役割も重要。 日本が議長国として進めるG7での広島AIプロセスについても、 当初よりIGFがプロセスの中に組み込まれており、 国際的な議論においてIGFが果たした役割は大きいと思う。

最後にIGF 2023京都全体の感想として、 IGFにはインターネットに関わる多様な人が参加しており、 予期せずにとても面白い話が聞けたりするところが大きな魅力。 一方、「ハイレベルセッション」は、 対等な立場ですべての人が議論するというIGFの精神に反しているのではないかとも思う。 自分の本業の空き時間で活動している人も多く、 セクターや国によっては、IGFに関し、 入念な準備や参加ができないことが課題だと思う、とのことだった。

5. 「マンガの世界需要とオンライン海賊版」セッション・ブース展開で見えた到達点

骨董通り法律事務所 福井 健策

小学館、集英社、講談社、KADOKAWA、 スクウェア・エニックスの出版5社から構成される海賊版対策チーム(通称JPMAC)の取り組みについて紹介された。

セッションでは海賊版がどのように機能し、 どのような対策が行われているのか、 なぜ海賊版閉鎖が難しいのかについて説明し、 あらゆる手段を講じても、 現在日本語原文の海賊版サイトだけで月間1億5000万セッションものアクセスがあることを伝えた。 当日セッション参加者からは正規版がタイムリーに流通しない、 流通しても費用が高額だとの意見もあったが、 萩尾望都氏がクリエーターの立場からマンガ海賊版への思いを語った際は会場いっぱいに拍手が起きた。 また、 ブース出展では特別動画や人気漫画家16名が書き下ろした小冊子を配布し、 全ブース中最大規模の来場者数を集めた。

今回の活動を通じ、 実は海賊版視聴は格差や正規版普及の問題だけでなく、 rich countriesでの視聴が多いことが知られておらず、 また、各種ネット犯罪に共通する構造的な課題であることから、 引き続き発信を続けていく必要があると述べられた。

発表後、加藤チェアより、先進国で法的な対策が進んでいながらも、 なかなか海賊版が減らないのはなぜかという質問があり、 いわゆる国際分業という実態が大きいこと、運営者とサーバ、 レジストラーが異なる国にあり、 明らかに違法だが運営者が摘発の難しい国に居る、 または摘発自体は簡単だが当該サービスが違法とは言いづらいグレーな国のどちらかであることが多く、 なかなか撲滅に至らないとの回答があった。

6. 参加者による感想の発表および議論

モデレーター:堀田博文(株式会社日本レジストリサービス)

サウジアラビアにおける開催については、 京都情報大学院大学の田中助教から、 各所から反発の声が挙がっているとの情報共有もあった。

また、IGFフェローの藤野氏からは、 ネットムンディアルをもう一度行おうという声も挙がっているが、 みんなで合意しようというモダリティがサウジアラビアの横で行われた場合にインターネットガバナンスに関わる方々はどう会議に臨むのかという質問が報告会後半で出された。 これについて前村氏からは、 2014年のネットムンディアルはとてもよくできたプロセスであり、 そういったものを国連の外で行うことに一つの価値があるとは思うが、 成果文書を作成してもエンパワーするわけではないので結局IGFと同じモダリティになっていくのではないか、 結果的にどのような意味合いになっていくかについては楽しみにしているとのコメントが返された。

JPNIC IGFフェロー 藤野 太一朗

JPNICでは、規模は小さいものの人材育成に重きを置いており、 インターネットガバナンスに携わる若手社会人・研究者・技術者・学生に対してIGF京都2023参加支援(フェローシップ)プログラムを実施し、 3名を選出した。 その一人である藤野氏より、 Youthの立場でIGF 2023に参加した感想が述べられた。

京都で彼はICANNやISOCで活動する若い人との交流が多かったが、 辛辣な意見が多く、ステークホルダーの断片化を強く感じた。 その理由としては、 さまざまなステークホルダーで議論の場が複数あることによりサイロ化が起きており、 誰がどこで議論すべきか、 どのように貢献すべきかわからないといった声や、 国家主導の活動から市民社会や技術コミュニティが除外されているように感じている、 複数の議論が政策決定側に届いていないのではないか、 といった声が多く聞こえてきたためである。

これに対し、朝日新聞の渡辺氏より、疑問の対象は国家なのか、 または経済界のアクターによる影響力に対するものかという質問があり、 藤野氏からは企業に対する批判は特になく、 意思決定が国家主導で行われているのではないかといった危機意識や疎外感、 特にGDCに関してモダリティがよくわからない、 参加の方法が不明確、 国連は本当に広くマルチステークホルダーをめざしているのかといった不信感のような声が多かったとの回答があった。

JPNIC IGFフェロー 大谷 亘

藤野氏と同様にJPNICフェローシッププログラムで参加した大谷氏より、 Youth兼Techの立場で感想が述べられた。

ISOC Youth Standing Groupと協力してYouthのソーシャルイベントを開催するという経験そのものも有意義であったと同時に、 ここでのネットワークが非常に重要であったことや、 これまで参加経験のあったICANNやRIRなどで当たり前であったオープンボトムアップやラフコンセンサスとは異なり、 IGFは意思決定ではなく対話のためのプラットフォームであることを強く実感したこと、 今の活動に経験を活かしていきたいとの発言があった。

駿河台大学 経済経営学部 准教授 八田 真行

最近はエンド・ツー・エンド暗号化に関する規制に関心があり、 登壇した二つのセッションのうちの一つはこれに関するものであったことや、 海外における規制の動きなどについての説明、 所属するGlobal Encryption Coalitionにおける声明発表などの活動が紹介された。 最後に、 来年のIGFがサウジアラビアで行われることについての問題提起や、 最近の技術者と社会の対立を調停する場としてIGFの存在意義があるのではないかといった感想が述べられた。

JPNIC IGFフェロー 内田 祥喜

フェローシッププログラムで選出されたメンバーの一人。 DTNという惑星間で使用できるプロトコルについて勉強しているが、 これはヴィント・サーフが開発したものであるにも関わらず、 IGFの会場でヴィント・サーフに会い、 “Do you know `DTN' ?”と聞いてしまい、 彼がニヤニヤしながら一緒に写真を撮ってくれたというエピソードが紹介され、 報告会会場が笑いに包まれた。 最後に、今回IGFに参加して、 これまでは技術面しかあまり意識してこなかったが、 ガバナンスに関する認識の浅さを痛感したとの感想が述べられた。

第2日目 2023年12月27日(水)

7.CSIRTのセッションを企画・主催して

一般社団法人JPCERTコーディネーションセンター 登山 昌恵

サイバーセキュリティの中でもCSIRT(Computer Security Incident Response Team)をテーマとしたワークショップWS #396とネットワーキングセッションNS #44を企画・主催したJPCERT/CCを代表して、 登山氏より以下のような発表が行われた。

ワークショップの目的は、 国境を越えたインシデント対応を行っているCSIRT組織について参加者に幅広く知ってもらい、 セキュリティ分野におけるグローバルな協力を推進するための課題を整理し、 何ができるかを議論することであった。 CSIRTの活動は緊急時対応だけでなく、 合同演習や情報共有など平時のコラボレーション活動も重要である。 また資源・資金が十分でない組織への支援や、 大企業や国等を含む社会全体にリーチすることが課題である。

一方、ネットワーキングセッションの目的は、 CSIRTで実務を行う人たちが集まり、 気軽に話ができる場を作ることであった。 ここでは、「セキュア、オープン、 自由なインターネット」の要素を同時に実現することの難しさ、 オープンではない国とのコミュニケーションの必要性、企業、 政府、アカデミアのCSIRTを含め、 サイバーセキュリティ分野からできるだけ多くの人がインターネットガバナンスの議論に参加すべき、 などの声があった。

企画、主催、進行まで一貫して行った結果、 思ったようにはいかないことを実感したとのことで、 自分の「仲間」(CSIRT関係者)にIGFに興味を持ってもらい、 参加してもらうことさえも難しく、 まして異なるステークホルダーの人をセッションに招き、 登壇してもらうことは簡単ではないと述べた。 聴講者自身がいろいろと考える余地のあるセッションは面白いと思うので、 例えば、CSIRTに批判的な人や、 インシデントの被害者・ユーザーなどをスピーカーとして招いてはどうかと考えているとのことだった。

二つのセッションを提案した当初の目的は達成できた一方で課題も認識した。 今後もIGFでのセッションの企画提案を検討し、参加も継続したい。 また、セキュリティのコミュニティにおいて、 インターネットガバナンスの議論をもっと広めていくため、 情報発信も行っていきたい、と述べた。

また、IGF全体について、 対話の場とされているはずなのにその場で即興で集まる場がないため予定調和の議論が多い、 各セッションがテーマごとに分断化されて横断的な発展が生まれにくい、 ホスト国が主催するような大規模セッションと同時間帯のセッションには人が集まりにくく、 注目度や重要度の順位付けがされているように感じる、 などの懸念を抱いているとした。

8. 2023に考えるインターネットガバナンス

慶應義塾大学教授 村井 純

村井氏からは、彼が関わった七つのセッションについて、 紹介があった。 その中のいくつかとして、AIのハイレベルセッションでは、 ビッグテックの社長2人(Google、Meta)、ヴィント・サーフ、 村井教授が同じパネルで議論を行うということが貴重で良い機会だった。 GAFAMの5社だけで生きていくことにAIの未来はないのではないか、 自分のデータを大事にしようと、 みんながどんどん気づいてきているといった話だった。

中国のセッションに関しては、 中国のインターネットには二つの目的があり、 経済についてグローバルインターネットを使っていかなければいけないということと同時に、 社会主義国として国民一人一人をよく監視するためにも使うという考え方があり、 この二つが共存しているということは、 中国を理解する上で知っておく必要がある。

また、漫画海賊版のセッションでは、 萩尾望都氏が発した「デジタル時代になり、 大事なことは文化の本質を守れるかどうかである」という言葉が大変印象的であった。 日本の右開きの文化が2014年から海外でも採用されたことに、 漫画のパワーを感じた。

9. 日本の子供たちの国際コミュニティ参加のための取り組みについて
~高校生研究者によるIGF 2023ワークショップへの登壇

自由ヶ丘学園高等学校 今井 朝子

自由ヶ丘学園高等学校では、生徒が国際コミュニティに参加し、 世界の人々と協働して課題解決をめざす活動を行っている。 そのための国際的な人脈構築を進めるとともに、言語、時差、 文化の壁を乗り越えられるようAIやVRを利用する環境整備をしている(AI、 VRの研究者募集中)。

取り組みの一環として、 3年前から子供たちのコミュニケーションを支援するAIロボットの研究開発をしているHonda Research InstituteのHARU Projectに参加している。 Honda研究者メンバーの依頼でIGFに参加することになり、 AI & Child Rights: Implementing UNICEF Policy Guidanceで生徒が報告を行った。

Youth活動においては、 技術(自動翻訳など)でカバーしつつ英語を使い、 日常的に国際的なプロジェクトやコミュニティに参加して、 自分の意見の発信、提案、意見交換ができることが重要である。 そのためには、子供たちを国際コミュニティにつなぐ場の提供と、 学校におけるより良い通信環境の整備、 日本の学生の世界デビューへ向けた協力が必要である。

10.ユニセフ主催の『児童の性的虐待画像等への対策』のセッションに参加して

一般社団法人インターネットコンテンツセーフティ協会/一般社団法人日本インターネットプロバイダー協会 立石 聡明

このセッションに登壇した立石氏より、次のように紹介が行われた。

児童の性的虐待画像等への対策については、 プロバイダーが行うブロッキングとユーザーが自ら行うフィルタリングがあるが、 ブロッキングは通信の秘密を定める憲法に違反する可能性があり、 慎重な対応が必要である。 インターネットコンテンツセーフティ協会(ICSA)では、 オンライン性的虐待画像等に関する通報リストを作成し、 削除等するための仕組みを独自につくり、2016年から実施しており、 この取り組みについてこのセッションで紹介した。

また、今回初めてIGFに参加したJAIPA長谷川氏は、 世界中からの参加者の多さや会議の規模の大きさい驚いたが、 これだけ規模の大きい会議なのに、 デジタル関係に関わっていてもIGFを知らない日本人が多かったので、 もっと多くの人に知ってもらう機会を作れたらいいと思う、 と述べた。

京都情報大学院大学では、 IGFのダイナミックコアリション活動の一つであるSIGに関連イベントを今年6回行った。 IGF 2023のプレイベントとしては、 10月7日にチャンゲタイIGF事務局長やカンボジアの学生20名超を迎え、 プライバシー保護に関するワークショップや懇親会などを実施したことが立石氏より紹介され、 今回参加した若者を今後もSIGの活動に継続して参加してもらうためにどうすべきか、 が課題であるとのことだった。

11. メタバースセッションを企画・主催して

一般社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター 前村 昌紀

バーチャル美少女の国連IGF登壇を実現させた、 経緯と内容について紹介がされた。 日本インターネットガバナンスフォーラム2022のプレイベントで、 バーチャル美少女ねむのトークイベントを見て、 この世界観をぜひIGF 2023に持ち込みたいという思いからセッションを企画した。

当日はZoomで、ねむさんと、 共同研究をしているミラさん(マルタ大学のジェンダー論研究者)がコラボして登壇。 メタバース空間の紹介、操作デモ、メタバース世論調査結果、 アバターで別の性別を選択することの社会学的考察、 メタバース上でのハラスメント状況などが報告された。 累計90人の参加に手ごたえを感じる結果となり、 ねむさんファンをIGFコミュニティに持ち込むこともできた、 という感想が述べられた。

12.参加者による感想の発表および議論

モデレーター:IGF 2023に向けた国内IGF活動活性化チームチェア 加藤 幹之
スピーカー:大東文化大学 上村 圭介

上村氏は今回のIGF 2023でPolicy Network on Meaningful Accessのセッションにスピーカーで登壇した。 このテーマはデジタルデバイドの問題やローカルコンテンツ・多言語化・国際化ドメインの問題などが含まれる。 多言語化や国際化ドメインの問題については、 古いようで新しい問題で、 例えばAIの開発には質のいい多くの言語データが必要であるが、 マイナーな言語のデータは限られているため、 その言語でのAIの開発は遅れ、 そこに新たなデジタルデバイドが生じる。 日本としても、そのような課題認識を持つことは重要。 また、日本からの情報発信については、 日本は技術開発が得意なので、メタバースのような、 新しい技術やインターネットの利用を通してインターネットガバナンスに関する情報発信をしていってはどうか、と述べた。

若者にIGFに関心を持ってもらって継続して参加してもらうには、 若者に登壇したり前に出て行ったりしてもらえるようなインセンティブやお膳立てが必要ではないか、 という意見に対し、賛否が分かれる議論もあった。 また、若者たちが仕切る、 ジュニア版IGFのようなものがあってもいいのではないか、 という意見が参加者から出された。

Asia Pacific School on Internet Governance (APSIG)参加報告

JPNIC IGFフェロー 藤野 太一朗

(IGF 2023とは直接関係ないが、 2023年11月26日から29日にかけてフィリピン・マニラで開催された、 アジア太平洋地域のインターネットガバナンスに関する若手の能力開発プログラムへの参加報告である。)

最初に、ドイツのWolfgang Kleinwächter氏(インターネットガバナンス作業部会(WGIG)メンバー、 ICANN理事などを歴任、 EuroDIG共同創設者)がインターネットガバナンスに関する専門家を育成する意図で、 修士課程を作りたかったところ、European Summer School on Internet Governance (EuroSSIG)が2007年に夏期コースとして欧州で始まり、 他の地域に広がっていった歴史について紹介された。 次いで、自己紹介およびAPSIGの概要についての説明の後、 以下の感想が披露された。

  • 若手の学びの場、アジア太平洋地域内のさまざまな国/地域から、 さまざまなステークホルダーに属する参加者が選抜されて参加したこと、 つまり市民社会を代表する人、弁護士、 技術コミュニティから参加している人といった形で、 なかなか接点がない四つのステークホルダーが同じ場で一堂に会して議論できたことがよかった。
  • また、インターネットシャットダウンが起こった国から来た参加者から生の声を聞けたことも非常に収穫であったこと、 技術的な課題についても、 また社会的な課題についても学ぶ機会を得られ、 広範囲にわたる議論の潮流について学ぶことができた。
  • APSIGは貴重なネットワーキングの場であった。 知り合いの知り合いという形でつながっていくことがIGFの価値であり、 どんどん知り合いを増やしていきたいと思った。
  • 学びの場という建付けのため、 参加者が集まり何かを行うといったことができなかったのが課題であると参加者間で話していた。

13.今後の日本におけるIGFへの取り組みに関する意見交換

モデレーター:一般社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター 前村 昌紀
スピーカー:IGF 2023に向けた国内IGF活動活性化チームチェア 加藤 幹之

今後の日本におけるIGFへの取り組みについて、 以下のような意見が出された。

  • 今回のIGF 2023は本当に大成功に終わった。 若い日本人も思ったよりも多く参加していた。 今後の日本におけるインターネットガバナンスに関する議論につながる、 何かしらの糸口がつかめたことが、京都の大きな成果だと思う。 これをどう今後につなげていくかが重要。
  • 日本でのユースを取り込む活動を何とか進めていきたい。 どのように進めるか検討したい。
  • 今後の日本でのインターネットガバナンス・IGFに関する活動が外から見えにくく、 クローズドで同じメンバーしか活動に参加せず、 参加者が増えないのではないか。
  • 国連のWebサイトはわかりにくくアップデートもあまりされないので、 日本語でわかりやすく情報発信をすることが必要。
  • 日本でのNRI(地域・国別のIGFに関する取組)として、 国内のIGF活動をもっと活発にやるべき。
  • 日本におけるNRIについて、 手探りではあってもとにかく始めて、 走りながら皆さんの意見を聞いて改善していってはどうか。
  • とりあえず走り出すのはいいが、最低限、 ローカルコミュニティのエンドースメントが明確になっていることは重要。

本要約は 一般財団法人国際経済連携推進センター(CFIEC) のご尽力により作成されました。

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